nanashinoblog

書評、日記、断片

2021/07/11

靉光の眼」2021/07/11

 

録画していた日曜美術館で、靉光あいみつ、と読む)という画家が特集されていて、その人生と激烈な絵にうたれた。

番組内では時期にわけて靉光の幾つかの絵を紹介していたが、そのなかでもとりわけ「眼のある風景」という作品に惹かれた。倒した木の幹を連想させる渦巻く褐色の混沌の真ん中にある一つの緑色の眼球を持つ眼。それに見詰められて、テレビ画面越しに自分の中のなにかをその眼に見透かされたような気がした。一度みただけで記憶から離れない。凄い絵だと思った。

それに加えて、靉光の人生を振り返るなかで、妻が夫についた記した文章が印象的だった。日中なのにカーテンで真っ暗に閉ざした部屋の隅で、靉光はひとりうなだれていて、妻がどうしたのかと訊ねると「絵がかけない」と言って涙を流したという。それが妻が唯一見た彼の涙だったそうだ。

詩や小説といったものを書きたいと考えているものとして、自分が取り組む創作に対する己の身の投げ方というものを考えさせられたような気がした。靉光の、激烈なまでの絵画への執着は、創作に携わる人間のありかたを示しているような気がする。何も失わずに、快適なまま、創作をはじめて終えられる。そんなことはきっとなくて、自分のなかの何かを創作のなかで破壊されてしまうかもしれない、というような覚悟のもとで為された創作こそ真にすばらしい作品を産むのだろうか。現実の靉光の心うちは番組だけではもちろん分からないけれど、そんなふうに感じさせられた。